払いたい病

久しぶりにかつての友達と飲みに行くこととなった。奇跡的に予定が合った。飲み会で五千円減るとする、五千円でなにができるかを考えてしまう。

まずキキちゃんとランチできるだろうし、何か買ってあげられるだろう。この飲みにそれだけの価値があるのだろうか、ないだろう。会話しても別に楽しくともないのだ。ぼくはひたすらご飯を食べたい。

ひとえにご飯へ行く理由はご飯が食べたいだけなのかもしれない。まあいいや、そんなことは。

久しぶりに貧乏な日々を送っていたので、気が参ってるのかもしれない。来月には気も変わっているかもしれない。ここ一ヶ月キキちゃんには飯を奢ってもらいっぱなしなのだ。頭もおかしくなる。男が払う必要はまるでないけど、ぼくは出来るだけお金を払いたい。好きな人間とご飯へ行くときは出来るだけ全て払いたい。それができなくなると、リズムが乱れる。銀行になりたいし、財布的な一面も持ちたい。

お金を持ちたくはない。お金を払いたい。ほらほらほらほらほらほら払いたい!払いたい!前世はきっと霊媒師に違いない。資本主義に生まれたからお金を払いたいに違いない。間違えて守護霊まで払ってしまったのだ彼女は。だからぼくは預金に怯えるのだ。はやく払いたい!滞納してる金を!払いたい払いたい!

払いたい病が一時的に失効したら、次はしっかりと始めた物語を終わらせるように頑張ろうと思います。ああなにせ色々と多いんですなあ。今は装いにグッと視点が集中しすぎている。なにせ一ヶ月も買っていないんですからな。装いほど簡単に構築できる想像はないのである。

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NZ 第1章 ブレンナム

ブレンナムでヒーコとビールを飲んでいた。ヒーコは二十歳かそこらなのに老けて見えた。夜の街はただただ冷え、ひたすらに寒かった。なのに外でビールを飲んでいた。夜の広場で仕事の愚痴を言い合った。ヒーコは一週間後にクビにされるかもしれないと笑っていた。どうやらボスの求める作業能率をヒーコは果たせていないらしかった。『だれもあいつの求めるスピードで仕事なんかできてない。まだ仕事始めて一週間も経ってないのに、あいつ頭おかしい』隣のオランダ人がうなずいたを

ヒーコとはウェリントンのゲストハウスで会った。ヒーコは12歳の頃から煙草を吸っているらしかった。豆腐が好きらしい。やたらファックと言うわりに几帳面で優しかった。

「thanks 」と言われれば「no worries」と返してまうのは、ヒーコの影響だろう。

冬の野良仕事を探すことほど大変なことはいだろう。真冬にニュージーランドへ来たことを幾度も後悔した。まあでも、なんとかぼくはブドウの木の剪定の仕事にありついた。彼は彼で剪定された枝をワイヤーにくくりつける仕事にありついた。

というわけで農場こそ異なるが、ぼくらはブレンナムで再会した。ダンボール二箱を買い込んで、全部キルするぜとか言いながら飲んだ。ぼくは四本しか飲まなかったが、ヒーコとオランダ人はそのあいだに一箱開けていた。

その日の夜、ヒーコのゲストハウスへ遊びに行った。ブロンドの男が夜中だというにシリアルを食べていた。ヒーコはドイツ語でその男に挨拶をしたあと、ぼくらに謝った。ぼくがオランダ人にドイツ語話せる?と笑いながら聞いていたのを、ヒーコは聞いていたに違いない。

このオランダ人は相変わらず何を話しているのかわからなかった。寝癖がすごいし、クマもすごい。「おまえはもっと頑張らないとすぐにクビになるよ!」とヒーコが諭すと、オランダ人は深刻な顔になって、たぶん、『I know』と言った。ヒーコ曰く、彼はサボり癖がすごいらしく、みんながセコセコ働いてるあいだに、寝たりしているらしい。ぼくが「おまえのスタイル最高やん!」と言うと親指を立てていた。

「きみはカートコバーンに似てるね!ニルヴァーナの。もしかして、フランス人?」とシリアルを食っているドイツ人に話かけると、ヒーコとオランダ人は爆笑した。しかし、張本人である彼は顔を赤く染めて「take a guess」と言った。ついぼくは吹き出してしまった。その仕草がまるでコマーシャルのように見えたのだ。

「冗談だよ!冗談!っていうか、英語の発音めちゃくちゃうまいね。まるでネイティブレベル!」とつい言ってしまうと、そいつが滔々と外国語を覚えるためにはどうあるべきかみたいなことを述べ始めたので、オランダ人は眠たいから部屋に帰ると言った。

「おまえはドイツ人と話すためにニュージーランドまで来たのか」とそいつが皮肉を交えて言いだしたので、「パーフェクトイングリッシュなんかどうでもいい。おれは羊たちのボスになるためにここへ来た」と返すと、ヒーコがまた笑って「そういえば、ドイツへ帰ったら何をするんだ?」と英語で聞いた。

もうすぐ彼はドイツへ帰るらしかった。心理学を勉強すると彼は言った。「ソウシ、フロイトって知ってる?あいつ頭おかしいよな?」「いや、おれは好きやけど。っていうか、彼の本よく読んでたな」

『サーカスティック』という形容詞はぼくがニュージーランドへ行って初めて与えられた形容詞だった。その後も『shy』『afganistan』『stupid』『philosopher』youの後ろにいっぱいついた。

このとき、ぼくは『philosopher』という称号を手に入れた。心なしか、シリアルも尊敬の眼差しをぼくに注ぐようになっていた。シリアルは心理学を応用して大衆の心を煽るようなマーケティングを学びたいらしい。このとき、ヒーコがキレた。「ごめん、今からドイツ語で話す」ヒーコは焚き火のように話し始めた。

しばらくすると、シリアルが凹みだした。ヒーコは彼になんと言ったのだろう。想像だけど、ナチスの話をしたに違いない。二度目に飲んだときも、キム(後に紹介する)とフィリピン人(自称金持ち)が大げんかした際にナチスの話をしていた。

ヒーコは顔がおっさんであるわりに未だ二十歳で、理系らしく、機械のこと以外はわからないらしいが、妙に説得力があった。諭すというよりも、優しさのあまりに言葉を紡ぐような人間だった。シリアルはぼくより年上だったと思うが、ヒーコの話をよく聞いて考え直すよと英語で呟いた。

朝方、ぼくはゲストハウスへ戻った。このゲストハウスで、ぼくはシャイボーイと呼ばれてたに違いない。誰とも話さず本を読み、呑みの誘いも断っていたからだ。唯一仲良くしてくれたイタリア人のマルコはヤクザみたいなジャージを羽織って、レッチリを爆音で聴きながら剪定の仕事をしていた。『by the wayじゃん!レッチリ好きなん?』と訊くと『だれやそれ』と返したきたのは未だに覚えている。

ぼくは総じてシャイだった。あんまり人と話したくなかった。西洋に憧れたマレーシア人の哀れな奴はいつもぼくを見下すような目で見ていた。こいつがいたから、ぼくはシャイになった。あとはワークキャップを被ったドイツ人がストレスだった。何はともあれ、農場のボス、マイクはイケズな奴だった。

研修期間後、ぼくはクビになった。ヒーコにメールすると「おれはなんとか大丈夫そう!この前のオランダ人覚えてる?あいつはやっぱりクビになったよhaha」その二日後、ヒーコから「クビになった」との連絡が来た。そのとき、ぼくはケニヤ人のキムと外で暮らしていた。

ほしぼし 煌り

ほしぼし ひかり ぼちぼち 終わり

月なき夜 鳴く 星のまたたき

チカチカ ドン チカチカ ドン チカチカ ドン

あれはなんの星か あかく 煌る あの星は

あれは星か 星ではないのか

月なき夜 またたく 星鳴く

チカチカ ドン チカチカ ドン チカチカ ドン

焚き火の匂いを纏う 黒き人

肉汁したらせ、白い歯むき出し

拾ったダイヤを 火にかざす

ほしぼし ひかり ぼちぼち おわり

焚き火 消し 散らばる 木屑

あかく 灯る

土に咲く 火の花

チカチカ チカチカ チカチカ

カチカチ 煌って ぼちぼち 終わり

元旦の詩

クソ癖になるこの味

おれ 食らう イノシシの脚

リブに噛みつく 歯茎の赤さ

童貞のように 野蛮でピュア

クソ癖になるこの味

涎降らし 雨舞わす風と

踊るピュシス 吹き出す 千の帳

揺りかごから墓場まで

地鳴り クライシス

空走る 雷 掌の皺 刻み

クソ垂らし メクラだまし 声枯らし

そして 木枯らし まで

明朝体を 酷使 黒ずむ まで

お手する 犬 抱き

愛ゆえ ころし 卸した牙で

愛の死を 愛の詩を 哀の詩を

I の 詩を

涙流るなら 満ちるまで 月 欠く先

蜘蛛の糸 で飛ぶ 詩

I 充たす 愛から 溢れる藍を

空に流せど 雲ひとつ 今ひとつ 足らず

そして そして 夜が染まるのを

ベランダから みてた

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師走の詩

ある世界の情景

今夜、毛皮を纏えぬ者が

毛皮を纏い

歌えぬ声で 聖歌を歌う

最も愚かな 者が 愚かな唄を

夕べ、今朝もがれた腕が

独り泣き始める

身体の垢を詰めながら

蕾をひらく そんな夕べ

侍る 苔を擦り落とす

ヤカラの唄が 海へ ながれる

黄昏 プールの冷たさ 凍て

水面に 串ざす カラスの嘴

鳩 来たる 公園へ 獣を放つ

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われはかみなり

我は神なり われは雷。あまりにも恣意的な規則により、2018年を迎えさせられる羽目となった。神社へ行けば御神籤をひく。賽銭やらを入れることはないが、お邪魔しますとは言う。森へ行っても、人の家へ行っても猫の住処へ行ってもお邪魔しますとぼくは言う。地霊や地の利を信じている。だれかの住処へ行くときは部外者であることを心得ている。

初詣にはアホみたいにひとが集まる。恣意的な行事だ。御神籤で神社(場所)がどれほど、ぼくを好んでいるか確認する。一種の対話である。恣意的だ。

キキちゃんを連れて地元の神社へ行った。御神籤を引いた。『願いなさい、神を拝みなさい。中略。清き願い以外は神に届かない』なるほど。神は偉そうになった。ここの神と相性が悪くなったのだろう。大吉とは思えない内容で思わず吹いてしまった。

御神籤はどうやって入荷するのだろうか。ロット数があるのだろうか。いつ発注するのだろうか、とか考えていた。流通のプロセスを考えたところで神(縁)を阻害するとは、ぼくは思えない。

偶然ではあるがそれにあたり、そこに文字が書かれているこのプロセスが神を壊すならばそんなもの壊れてしまえば良いのだ。偶像崇拝よりたちが悪いじゃないか。超越的なものを神とは呼ばない。さらに言えば、超越的なものは存在しない。超越的なように見えるだけではないのか。

ぼくは信じると言う言葉があまり好きではない。信じるというよりも認識しているという方がしっくりくる。ぼくは神を認識している。地霊である。縁である。

夢十夜 第一夜

あるグループがいた(中学生のときのグループである)当たり前のように車を乗り回し、グループのボスがグループのメンバーを誤って轢いてしまった。そこからこの物語は始まる。

彼は死んだ。ぼくがそれを知ったのは修学旅行のときだった。彼が死んで数日経ち、警察もよくよく立ち上がりそうになっていたのだろう。メンバーは事情聴取にそなえ、どのような態度をとるか確認しあっていた。

ぼくは彼が轢かれたとき、現場に居合わせていなかったにも関わらず、事件について知っていて、彼がこの世にいないことを知っていた。というのも、わたしは夢の冒頭にドライバー、つまりはボスに憑依していたからだ。暗い駐輪場を車で乗り上げ、ヘッドライトが死ぬ前の友人を捕らえ、友人を轢くまでわたしは克明にそれを目撃していた。

いま、わたしはぼくの意識のなかに潜んでいた。だから、彼らの口から語られることを避けるために、彼ら自体を避けていた。

もしも直接的に事件について耳にすれば、ぼくはは『知りません』という嘘をつくか、彼らを裏切るかの二択に板挟みになる。そんな羽目には陥りたくなかった。しかしながら、ヒソヒソ噺しが自然に耳へ流れてくる。バスの座席は事件が起こる前に決めたものであるから、当然わたしはグループの席に着いていたのだった。

修学旅行が終わり、金のないぼくはグループの一人と仕事の面接へ行くことになる。ぼくは遅刻してしまい、遅れて面接へ向かうことになる。

着くと友人が面接をしている最中だった。友人の後ろには面接に来たスーツ姿の人間の集団がおり、そのなかのショートカットの女がぼくにウィンクを送ってきた。小柄で艶のある髪をおかっぱのように切り揃えた女性と少女が同居するような女性。わたしはお尻を触っても怒られないだろうなと考えていた。

ここで、わたしの意識は面接中の友人へと切り替わる。友人は本を開き、朗読するよう促されている。面接官は二人いた。友人の前に座っている髭面の男と後ろに立っている女。二人とも首もとが詰まったシャツをきちんとまとい、黒いマントに黒いパンツ、黒いヒールブーツを履いていた。彼らが身体を動かせばマットサテンの真っ赤な裏地がマジシャンのようにひらめいた。

『わたしは誓って、社会的に害悪な行為、もしくは社会的な組織に糾弾されるような行いを取った試しはありません』

と本には太字で書いてあった。友人はここを朗読するよう言われていた。友人は読み上げた。『わたしは誓って、社会的に害悪な行為、もしくは社会的な組織に糾弾されるような…』に差し掛かったとき、友人の右手、親指の付け根、ふっくらとした白い丘がヴィクンと波打った。青白い部屋が赤のライトに切り替わり、短くも決定的な判定音が響いた。

面接官たちは顔を見合わせニヤついた。広角が片方だけ歪にあがる、意地悪な笑みは友人とそのなかにいるわたし、ぼくをヒヤヒヤと震え上がらせた。

『もう一説、次はここを読んでください』と面接官の男は本を捲り上げ、ある一言を指した。友人は朗読し、再び同じ轍を踏んだ。予め親指を波打ちながら朗読する作戦に挑んだが、無駄だった。意識的な震えと無意識的な震えは貧乏ゆすりと痙攣くらい異なるものだった。また面接官たちは顔を見合わせニヤつき始めた。そして、面接官の男は手をパチパチと叩き、『これにて面接は終了いたします。なお、遅刻してきた方に関しては当社の方針におきまして、面接することができません。後日、面接にお越しください』

ぼくは心を撫でた。

ぼくはグループのボスとドライブをしていた。ボスとぼくを含め、四人いた。警察から逃げている様子だった。ボスが独りでに噺している。夜だった。灯の乏しい田舎のハイウェイを走っている。事件の犯人は身割れした。その経緯についてボスは噺していた。

『○○の死体を処理しようと思って、消防局に電話かけてんやん。色んな消防局に電話してんけど、誰も教えてくれへんかった。防腐処理のやり方だけ教えくれるところもあったけど。たぶん、それが原因でバレたんやろうなあ。電話かけまくったんミスやわ。二軒か三軒なら普通のことやし気にならんやろうけど、さすがにな。で、結局は死体処理できてんけどな』

『一人で処理したん?』

『防腐処理のやりかた聞いてたから、やったった!三ヶ月くらいかかったけど』

ぼくはトランクのところに座っていた。目の前の板に円状に切られたイカの炒め物のようなチーズが一つあり、その付近にケチャップがあった。ぼくはそれをケチャップにつけて食った。車の横を自転車で走る国民にも、釣りをしている国民にもあげた。

チーズは喉を過ぎると鼻の粘膜に付着した。ぼくは必死に鼻からチーズを掻きだした。後ろを振り返ると鼻にチーズが詰まった連中がバタバタ倒れていた。わらわらと警察、救急車が集まってきた。ぼくらは走った。海へ目掛けて走った。テトラポットをボスは右へ行き、ぼくと他の二人は左へ行き、テトラポットに身を潜めた。ぼくらは追い詰められた。目の淵でボスが囚われたのを目撃した。ぼくは友人たちに海へ飛び込むよう促した。

ぼくと友人は泳いだ。視界はぐんぐんと彩り、ぐんぐんと景色が変わった。向こう岸に日本が見える。わたしたちは太平洋を横断しているのだ。わたしたちはさらにスピードを上げ、日本列島へ上陸した。

その街は未来的でもあり、古風でもあった。超未来的な建物があるかと思えば、バラック小屋、古い木造、土埃の舞う道がそれらの間を覆っていた。すれ違う、日本人はみな、野良着を身につけていた。異国だった。ぼくは性別が変わり、母親になっていた。友人は幼い子供になっていた。ぼくは子供に『コンニチワ』の発音を教えながら、裏路地を抜け、小さなドラム缶が椅子のように並べられた誰かの秘密基地を発見すると、胸を撫でた。これからどのように生きていこうか、と考え始めるとともに、心臓は高鳴り、ある種の興奮を胸に抱いていた。