どんぐりとドジョウ

どんぐりとドジョウ

どんぐりころころ どんぶらこ‬ ‪
おいけにはまって さあたいへん
‬ドジョウがでてきて こんちにちは‬ ‪
ぼっちゃん、いっしょにあそびましょ‬ ‪

どんぐりころころ よろこんで‬ ‪
しばらくいっしょにあそんだが‬ ‪
やっぱりおやまがこいしいと‬ ‪
ないてはドジョウをこまらせた‬ ‪

初、どんぐりは山にいた。しかしながら、木から落ちてころころ転がってどんぶらこと水辺へ落ちてしまった。どんぐりは二度と地上へ戻ることはできない。
そもそも、どんぐりは地上に落ちる定めにある。未熟であろうが美しかろうが、茶色だろうとこげ茶であろうとマロンであろうと、虫に食われていようが。全てのどんぐりは実った瞬間から地上へ落ちる定めにある。どんぐりは落ちて初めて夢を見るだろう。いくら故郷が恋しいかろうと、どんぐりは戻れないだろう。‬ ‪

人間でも同じである。もう一度母の胎内へ戻るなんて不可能なのだ。しかしながら、人間はあらゆる手段を以って胎還りを再現し、新たな生を授かろうとする。ある時は目隠しで御堂を巡って清らかになったり、あるときは一人で森林を彷徨って成人したりする。修行とは胎還りなのだろうか。‬ ‪
故郷を喪失して、戻れないことを知り、新たに創造しようとすること。‬ ‪これが生物の定めだろう。生物の三段階。修行とは故郷の喪失をしっかり知ること。そして、そこに還ることが不可能であることを知ることである。‬ ‪

どんぐりに話を戻す。どんぐりは沼に沈んだ。発芽条件などは分からないが、高確率で発芽しないだろう。どんぐりは故郷の夢を見る。尽きぬ泪を浮かべながら、沼の底から空を見上げる。救われない。‬