夢十夜 第一夜

あるグループがいた(中学生のときのグループである)当たり前のように車を乗り回し、グループのボスがグループのメンバーを誤って轢いてしまった。そこからこの物語は始まる。

彼は死んだ。ぼくがそれを知ったのは修学旅行のときだった。彼が死んで数日経ち、警察もよくよく立ち上がりそうになっていたのだろう。メンバーは事情聴取にそなえ、どのような態度をとるか確認しあっていた。

ぼくは彼が轢かれたとき、現場に居合わせていなかったにも関わらず、事件について知っていて、彼がこの世にいないことを知っていた。というのも、わたしは夢の冒頭にドライバー、つまりはボスに憑依していたからだ。暗い駐輪場を車で乗り上げ、ヘッドライトが死ぬ前の友人を捕らえ、友人を轢くまでわたしは克明にそれを目撃していた。

いま、わたしはぼくの意識のなかに潜んでいた。だから、彼らの口から語られることを避けるために、彼ら自体を避けていた。

もしも直接的に事件について耳にすれば、ぼくはは『知りません』という嘘をつくか、彼らを裏切るかの二択に板挟みになる。そんな羽目には陥りたくなかった。しかしながら、ヒソヒソ噺しが自然に耳へ流れてくる。バスの座席は事件が起こる前に決めたものであるから、当然わたしはグループの席に着いていたのだった。

修学旅行が終わり、金のないぼくはグループの一人と仕事の面接へ行くことになる。ぼくは遅刻してしまい、遅れて面接へ向かうことになる。

着くと友人が面接をしている最中だった。友人の後ろには面接に来たスーツ姿の人間の集団がおり、そのなかのショートカットの女がぼくにウィンクを送ってきた。小柄で艶のある髪をおかっぱのように切り揃えた女性と少女が同居するような女性。わたしはお尻を触っても怒られないだろうなと考えていた。

ここで、わたしの意識は面接中の友人へと切り替わる。友人は本を開き、朗読するよう促されている。面接官は二人いた。友人の前に座っている髭面の男と後ろに立っている女。二人とも首もとが詰まったシャツをきちんとまとい、黒いマントに黒いパンツ、黒いヒールブーツを履いていた。彼らが身体を動かせばマットサテンの真っ赤な裏地がマジシャンのようにひらめいた。

『わたしは誓って、社会的に害悪な行為、もしくは社会的な組織に糾弾されるような行いを取った試しはありません』

と本には太字で書いてあった。友人はここを朗読するよう言われていた。友人は読み上げた。『わたしは誓って、社会的に害悪な行為、もしくは社会的な組織に糾弾されるような…』に差し掛かったとき、友人の右手、親指の付け根、ふっくらとした白い丘がヴィクンと波打った。青白い部屋が赤のライトに切り替わり、短くも決定的な判定音が響いた。

面接官たちは顔を見合わせニヤついた。広角が片方だけ歪にあがる、意地悪な笑みは友人とそのなかにいるわたし、ぼくをヒヤヒヤと震え上がらせた。

『もう一説、次はここを読んでください』と面接官の男は本を捲り上げ、ある一言を指した。友人は朗読し、再び同じ轍を踏んだ。予め親指を波打ちながら朗読する作戦に挑んだが、無駄だった。意識的な震えと無意識的な震えは貧乏ゆすりと痙攣くらい異なるものだった。また面接官たちは顔を見合わせニヤつき始めた。そして、面接官の男は手をパチパチと叩き、『これにて面接は終了いたします。なお、遅刻してきた方に関しては当社の方針におきまして、面接することができません。後日、面接にお越しください』

ぼくは心を撫でた。

ぼくはグループのボスとドライブをしていた。ボスとぼくを含め、四人いた。警察から逃げている様子だった。ボスが独りでに噺している。夜だった。灯の乏しい田舎のハイウェイを走っている。事件の犯人は身割れした。その経緯についてボスは噺していた。

『○○の死体を処理しようと思って、消防局に電話かけてんやん。色んな消防局に電話してんけど、誰も教えてくれへんかった。防腐処理のやり方だけ教えくれるところもあったけど。たぶん、それが原因でバレたんやろうなあ。電話かけまくったんミスやわ。二軒か三軒なら普通のことやし気にならんやろうけど、さすがにな。で、結局は死体処理できてんけどな』

『一人で処理したん?』

『防腐処理のやりかた聞いてたから、やったった!三ヶ月くらいかかったけど』

ぼくはトランクのところに座っていた。目の前の板に円状に切られたイカの炒め物のようなチーズが一つあり、その付近にケチャップがあった。ぼくはそれをケチャップにつけて食った。車の横を自転車で走る国民にも、釣りをしている国民にもあげた。

チーズは喉を過ぎると鼻の粘膜に付着した。ぼくは必死に鼻からチーズを掻きだした。後ろを振り返ると鼻にチーズが詰まった連中がバタバタ倒れていた。わらわらと警察、救急車が集まってきた。ぼくらは走った。海へ目掛けて走った。テトラポットをボスは右へ行き、ぼくと他の二人は左へ行き、テトラポットに身を潜めた。ぼくらは追い詰められた。目の淵でボスが囚われたのを目撃した。ぼくは友人たちに海へ飛び込むよう促した。

ぼくと友人は泳いだ。視界はぐんぐんと彩り、ぐんぐんと景色が変わった。向こう岸に日本が見える。わたしたちは太平洋を横断しているのだ。わたしたちはさらにスピードを上げ、日本列島へ上陸した。

その街は未来的でもあり、古風でもあった。超未来的な建物があるかと思えば、バラック小屋、古い木造、土埃の舞う道がそれらの間を覆っていた。すれ違う、日本人はみな、野良着を身につけていた。異国だった。ぼくは性別が変わり、母親になっていた。友人は幼い子供になっていた。ぼくは子供に『コンニチワ』の発音を教えながら、裏路地を抜け、小さなドラム缶が椅子のように並べられた誰かの秘密基地を発見すると、胸を撫でた。これからどのように生きていこうか、と考え始めるとともに、心臓は高鳴り、ある種の興奮を胸に抱いていた。