「海を泳いでたの。綺麗な海だった。海はずっと深くってね、わたしは海を、その底にある街、神殿、それに弁天町もあったのよ。周りには同級生がいっぱいいてね。ぐるぐるとエイが泳いでいるのよ。エイと一緒に泳いだの。おおきなエイだった。お日様の光を背中に浴びながら仲良く泳いでた。海が気持ちよくてぷかぷかしてたの。でも、突然、エイは身体を翻して尾っぽの毒剣でわたしを刺したの。突然のことだったからびっくりしたのに、毒のことばっかり考えてた」

とキキちゃんは朝、開口一番に話しはじめた。ぼくは 素敵な夢だなあと思いながら聞いていた。それから1日経ってぼくはあることを思い出した。キキちゃんの夢はぼくの世界の話でもあった。

唯一書いた中編の物語がある。二年ほど前に書いたものだ。タイトルは『不眠症だ』眠るたびにどこかの世界へ飛ばされる。そして、夢を見る。でも夢の世界は実際にある世界だとぼくは疑う。太陽のない空で赤い光が虹色に炸裂しながら、それでもぼくは千年の眠りに就き、起きる。夢のことは何一つ覚えていなかった。という話である。この話は未完だが、続きを書くことはなさそうだ。

それはいいとして、その物語の初めにエイが出てくる。ぼくは詩を読んでいるのだが、だんだんと喉が重くなり始め、声が出なくなる。首元を見ると、エイの尾っぽがぼくの首に巻きついている。エイはコンブの黄金時代の話をしていた。エイは独りでにずっと話した。長い話をしたあと、エイは尾っぽを解いて去ろうとするのだが、今度はぼくがエイの尻尾を固く握って離そうとしなかった。すると、突然、海のイメージが去り、交差点の真ん中にぼくはいて、おっさんの手を硬く握っていることになるのだ。

今日、夢でなにをみたのか思い出せなかったが、思い出してきた。見た夢を忘れたあと、思い出すのは至難の技なんだけど、ふっと思い出した。ぼくは東京にいて、住んでいるところの数駅離れた駅で不意に降りた。住んでいるとは言っても電車に乗っていたのでどこに住んでいるのかはわからない。でも、住んでいるところとは別の駅に降りた。ここが東京か。灰色の街ではあったが、都会とは別の仕方で灰色だった。ぼくはだれかのアトリエへ入ろうとする。市の施設だったか、17時で閉まっていた。入り口の前に一人の男が立っていた。見覚えのあるおっさんだった。口ひげを生やし、頭はボサボサだった。夢から覚めた。箕面へいけということなのだろうか。民博に行きたいのに