わたしの祖先はパパランギ

わたしの祖先はパパランギ

おまえの祖先は何者か

絵の具が何重にも重なって土のような色になっていた。絵の中央部にチョークの落書きのような顔が書かれいたような気もするし、輪郭だけが浮かんでいたような気もする。しっかりと憶えていそうなのはわたしの祖先はパパランギという一文。あれが針金のようような機嫌の悪さで絵に刻まれていた。

わたしの祖先はパパランギ

おまえの祖先は何者か

ニュージランドのマオリは神々の土地を奪われた、いや、奪われたのではなく、それはだれの土地でもなかった。闖入者はだれの土地でもない土地を区画に分けた。マオリの神々はばらばらになった。ばらばらの身体のうえで彼らは戦った。その時にはパパもランギもおもいでになっていた。パパもランギもいなかった。彼らとカヌーの間に深い断絶が走った。わたしたちは何者か。

わたしの祖先はパパランギ

おまえの祖先は何者か

筆を執ったのは怒りだった。悲しみだった。闖入者に対してのそれと己に対しての。何者か、パパランギの子孫だ。モコを見ろ。どこの者だかわかるはず。モコさえ今はマオリの証でしかない。

マオリとは普通の人という意味だった。この作品をはじめて見たとき、わたしの揺らぎを見た。わたしが何者かという揺らぎ、わたしとおまえのあいだの揺らぎ、わたしとおれとのあいだの揺らぎ、それらの揺らぎがロウソク台の上に灯った人魂のようにあいだを揺らぎ続ける。消えることはないだろう。忘れさられるよりさきに。

何者かどうかさえどうでもいい世界までの、果てしない道のり。わたしはそれを越えたろうか。この肉体に抱かれたままで。それはどれほどまでに可能なのだろうか。奇妙なカップリングだ今は