青春と夜美女

隣の小学校出身の悪い子どもたちは、私たちの小学校よりマセていた。マセているガキはだいたい悪ガキだった。ちん毛が生えたとか、生えてないとか、脇毛の方が早かった、とか遅かったとか、性の入り口は希望に満ちつつ、恥じらいがあり、裏ビデオを回したりして日々愉しく、来るべき明るいまぐわいへ向けてシャワーでちんこの皮を剥いて洗ったり、尻の穴を触ったりしていた。

私たちは夜美女世代だった。初めて聴いた朗読は官能小説だった。真面目に不思議に男が興奮する条件を勉強していた気がする。盛り上がってきたAV女優が胸を揉んだり、下半身を揉んだりする。こそこそ夜中に起き出して誰にも聞こえないように音量を1に設定して、耳をテレビのスピーカーに押しつける。目前のテレビに目玉を向けると、アナログ放送特有の画面の粗さ、赤やら緑やら青やらの格子状の線が見える。映像がよく分からない。耳をつける、離す、何度か繰り返して音量を少し上げてみる。横になる。ちんこを出す。慣れるとどんどん大胆になってくる。私はよくベランダから小便をしたり、雨樋を伝って外出するようになった。

以前は朝の4時まで徹夜して家を出ていた。夜に抜け出すと叱られるが、4時は朝なので言い訳が幾らでもできる。そっとチャリのスタンドを跳ねて、ゆっくり跨がりそろそろペダルを漕いで、いきなり立ち漕いで風になる。その瞬間が好きだった。とてつもない自由、親もいない、誰もいない、足はカモシカよろしく逞しくなり、私は妄想する。速さのあまり鼻以外の部分が刮げおちた私の顔を、鼻を頂点に鋭角になった二等辺三角形になった頭を。

散歩している老人、原付を転がしてる新聞配達のおっさん、数分に一台通るクルマに警戒しながら人が途絶えるのを待つ。一瞬のチャンスを逃さないように目を凝らす。車のヘッドライトはないか、排気音は聞こえないか、鼻歌はないか、足音はないか、目で耳で確認する。神経症が祟って空が白んでくる。待てば待つほど交通量が増す。カラスが鳴いた。ああ朝が始まってしまう、もうダメかもしれない。少しの悔いが生まれつつあった。学校が始まる。起きた親が捜索願いを出してるかもしれない、バレる。でも、行くしかない。私は飛び出した。まず無人販売機の横にある自動販売機へ。ドリンクを選んでいるフリをしながら、エロ本のラインナップを確認し、見定める。人の気配がなくなった瞬間、なけなしの千円を突っ込む。ええええいとボタンを押す。一冊確保、チャリのカゴに突っ込む。そして、二冊目へ。

帰路の街はオレンジ色に染まっていた。アドレナリンが切れて眠気がやってくる。期待と希望と後悔と達成感。チャリを止める。冷や汗を感じる。音を立てぬように部屋へ向かう。着実に一段ずつ、三階まで。廊下のトイレを過ぎた辺りでトイレのドアを開ける。水を流して閉める。ベッドに横たわると安堵感、次に興奮、そして射精。眠り、遅刻。当時、3台所有していたチャリ通用のチャリで学校へ行く。正門の裏に止める。

密やかな行為、親にもバレたことがない、教師にもバレたことがない。誰にもバレたことがない。バレないようにやってるからバレない。バレたことはある。でも、それは氷山の一角でしかない。強迫神経症ゆえの隠蔽能力の高さ、バレることはしないように、素直であるがゆえに。