片割れは


あたしは巫女だから、ほらと女は言って多色なワンピースを己で指差し、何者でもない虹色を着てるンだと言いつかさる。そのダサい、ワンピースを見ながらへえと呟き、間髪入れずになるほどと応えた。女にはオーラが見えるらしい。握手を交わせば、身体に宿る色が見える(女は感じると言っていた)。女は歩いていると急にあゝダメと立ち止まり、蹲ってこういう場所、あたしダメなのと大きい独り言、返事が必要な独り言、もはや独り言でないヤケクソなBGMを口から放った。とりわけ何もない場所だ。寂しいと言われれば寂しいところだ。変哲もないといえば、何も変哲がないが気持ち悪いと言われれば気持ち悪い場所で全国津々浦々にある、何でもない情景。情報その一、どでかい競馬場に備えられたどでかい駐車場のその一画、情報そのニ、春なのに暑く曇っていた。情報その三、私は歩きタバコをしている。何がダメなのかわからないけど、気が、気が、重たいと女は涙目になった。同行者がアセンション[次元上昇]かと呟いた。同行者は女とシンクロしているらしく、数ヶ月前からそれが始まったと耳にしたのを思い出し、女の姿を見て男の姿を、男の姿を見て女の姿を、私はすかさずツーアイズ反復運動でそれぞれの佇まいを見比べた。男は曇り空を睨みつけコメカミに拳銃を当てるようにして人差し指を当てた。瞼が迷いと苦悶を詠唱しているようにばたつき、唇は堪え難いことに堪えているように一文字に跳ね上がり、その隙間から前歯の付け根が見えている。女は動けないと蹲っている。男は駆け寄り、女の背中をさすりながら大丈夫か、いけるかと仕切りに声かけを行い、女も餅つきの合いの手のように首を縦に振った。大丈夫じゃないやろ、男は女の粒のように浮かんだ汗をシャツの裾で拭き上げ、休もうかと空笑顔で私たちの顔を得意げに見回した。

車輪を止める縁に腰かけ、ツインソウルたちは同行者たちが買ってきた2Lの水を分け合った。どちらも喉がよく鳴って、その姿はとても病人たちのようには見えず、健全そのもののに見えた。女の首は浅黒く皺が年輪のように横縞に入り、それが呪詛的な首輪のようにみえ人生に首を絞められるようにして生きてきた人なのかもしれないと私は一人で頷いた。ツインソウルたちは恋人同士ではなく、ソウルメイトと呼ばれる類のツガイらしかった。恋人よりも決定的らしいが恋愛感情はないと漏らした。セックスはするが世間的な意味合いとは異なるらしい。愛なんですか?イメージしてるよりも、もっとおおきな愛と言われれば間違いないね。少女漫画のヒロインが禁止された恋(聖から俗、聖から性へ転楽)に落ちるための常套句に聞こえた。巫女から彼女になりたい女、世界を調律する使命を持った女からただの女になりたいと、この自称巫女の女は願っているんじゃないか。男はただ風に当てられた、例えば十代の頃に知人からカミングアウトを受けた者が異性愛者なのに同性愛者として目覚めたような感覚を受けるのと似ている。分かることと実相は異なる、それが未だ理解できぬ少年だった私たちはあの女が精神病院に隔離され、男は別の女と結婚し子を授かったと聞かされ、私は女が欲しかったものはただの愛だったと確信した。人生から首を締め続けられるようにして生きた女が自分の特性をスピリチュアルに装填し、生きる理由を獲て、社会に戻ろうとして失敗し精神が再び狂った。実は入院と退院を繰り返していたのだとその時、聞かされた。