泣き虫エリオット

 

リヴァプールのエリオットが私の部屋の片隅で震えている。私は訳を訊く。たぶん、英語を話していたと記憶している。エリオットが家へ来る前、地元の知人たちからメッセージを受けた。「エリオット指名手配かけてるから、アイツから連絡あったら教えて」との内容だった。エリオットはリヴァプールのユニフォーム姿のまま、震えながら涙を浮かべている。私はそっとエリオットの肩を抱き、匿うべきか否かを考えていた。事情から考察するにエリオットは何も悪くないのだ。私は正義と保身の間で揺れていた。仮にエリオットを守り、そのことがバレてしまえば、今度は私が指名手配を食らうことになる。私は穏やかな生活を手放したくないのだ。しかし、私が私のためだけにエリオットを裏切ってしまったら、エリオットの心に深い傷を、未来まで遺恨を残すことになる。未だ若いエリオットを傷つけないことは私の正義であり、正しい未来だった。私は決心した。私は私の身もエリオットの身も守ることを決意し、エリオットに尋ねた。エリオットはゆっくりとこう言った。「試合に出たい」私はエリオットを抱きしめ「あかん、絶対バレる。バレたら終わる。今は我慢して欲しいねん」エリオットの涙袋は決壊し、ポロンポロンと涙がこぼれた。そして頷いた。私はエリオットの熱さが私の保身を終わらせるのではないかと気が気でなくなり、強く強く抱きしめた。