鳴き声

 

何かしらが鳴いている声が聞こえて用水路へ屈みこんだ。ライトでぐるっと照らすも、何もいない。風も吹いていないのに草がそよいでいるだけだった。用水路を満たすほど、さきほどの雨は降らなかったらしい。急に雷を伴って雨粒が天井を叩いたのは19時ごろだった。それから1時間も経たずに雨は止み、黒光りしているアスファルトを見て思い出すほどに雨を忘れていた。

聞いたこともない声で鳴いている。灯りを照らせば声がやむ。お前はお呼びでないと言われているような気がする。私にはその声が苦しそうに聞こえたから、まあ何かアレであれば救ってやろうと思ったが、どうやら本人は同種を呼んでいる様子だった。

猫ではない、蛙でもない、カエルも七色声があるが都会の用水路に潜むものなんて種が知れている。鳥のような気がする。水路の上の部分、云々はコンクリで舗装されていて、鈍臭い奴が落ちたことがあるのか、はたまた生活の都合かは知らないがよくある用水路のステップだった。その程度のルーメンでは俺を照らせないぜ?というほど、日のあるうちはそんなに長くは感じないのだが、私のルーメンでは俺の奥を伺い知ることはできなかった。

虫は、カエルは、鳥は、猫は、なぜ鳴くのか。誰かを呼んでいるからだ。声はいつでも誰かを招いているのである。そして、その声に振り向く者は決して本人が意図する者ではない。それを承知で声を上げている、かの生き物たちに倣えばSNSのポスティングも声である。声は常に特定の相手を目指すが届く者は必ずしも届けたい者ではないだろう。光を向ければ沈黙し、闇に戻ればまた鳴き始める声は、たとえ私が何ルーメンだろうと照らせない。たとえば、私が発声源を見つけたとして、その声は聞こえるだけできっと意味が意図がわかるはずもない、それが人であっても。