堆積を彷徨う

サッカー部には童貞しかいなかった。ぼくを含め、新入生はみんな童貞だった。童貞でないほうが珍しかった。サッカー部は童貞の集合体だった。よくよく考えてみると、新入生のほとんどは童貞だったのではないか。入学して間もなく、友達が友達をカラオケで食らった、という話を聞いた。カラオケか、14歳の母というドラマが流行っていた。主演は志田未来だった。女子中学生扮する志田未来が14歳で妊娠し周囲に侮蔑されたり、応援されたりしながら出産するドラマだった。ドラマの終わりには主題歌であるミスチルのしるしが流れる。ドラマにというよりは、しるしにいつも強引に泣かされていた。『ゴムはつけたか』と彼に聞いた。思い返すと、二つの異なった返事が蘇る。27年間の記憶の堆積は事実を歪める。記憶は歪む。事実はその時にしか存在しない。この恣意な記憶の堆積を辿る旅に出る。一つ目の返事は『つけた』ということだった。財布に一片ゴムを忍ばせていたと彼は言った。財布にゴムを入れる。よくある話だ。高校生はみんなやっていた。チャンスに応えるために。しかしながら、多くのゴムが財布で生涯を終える。『中一の時から入ってるねん。友達が御守りにくれて、そっから放置してた』と女は話す。その女に童貞を奪ってもらった。半ば土下座しながら。付き合って2ヶ月経った頃か、『やらしてくれやらしてくれ』とフローリングに頭を擦らせた。再びその床に頭を擦りつける羽目になるのは二年後、別れ話の瀬戸際だった。 女は浮気した。浪人中だった女を大学へ連れて行った際に、たまたま美容学生がモデルハンティングをしていた。女はその男とヤッたらしい。ゴムはつけなかったと女は告げた。『せめて舐めてくれ』土下座しながら言うと女は1日に2人もセックス出来ないと泣いた。氷ついた、白髪がどっと増えた。半年間、女は2人の男に揺られた。そのあと、付き合ったが崩壊していた。付き合ったあと2人の女とやった。別の女とやったあと、そそくさと三人目とやった。タイだった。タイの女は鼻柱を触りながら『もう一夜、過ごして欲しい』と願った。友達が部屋をノックする、音が聞こえる。パンツを履いた。扉を開けると、タイの女はより熾烈なキスを贈った。友人と友人と寝たタイの女は笑いだした。『ラブラブやんけ』と戯けた。友人は下痢になり、ぼくは心が病んだ。ビエンチャンのゲストハウスで寝転がっていた。だらしない冷房とシーツの皺の間で一日が終わった。胸がつかえた。次の日の朝、日本人ゲストハウスのオーナーと会った。『土人のことばが日本人にわからないはずがないんだから。簡単ですよ。ラオスの言葉なんて』と彼はぼくらに話した。