不良少女

足をまるまると出して、煙草をふかしている少女を久し振りに見た。かっこいい。化粧もまだ上手じゃない、周りの目を少し気にしながらプリプリ歩いている姿は、失くしたものを見ているような気がする。そんな哀愁の目で彼女を見つめても、彼女にとっては鋭い視線のひとつでしかないという事実は苦しい。

視線を浴びる。視線を浴びせる。人間風情にも平等に目がある、そのことを思うだけでゾッとする。視線は暴力だ。視線は身体を硬直させる。視線は波を線に変える。生き物は、ものは波だ、歌声は独りでにおこる。わたしたちはゆらいでいる。しかし、一度視線を浴びれば、拓かれた独りは自閉し、歌声は止む。

我々の身体はあまりにも硬く一つの線。マッサージは線を波へと返す。我々の身体は線ではない。我々の身体は揺れている。線でなし、ゆらぎのなかで始は生まれる。

少女は線となって、地面を引きずる。反骨の始まり、身体が鉄の棒となる、パンクの始まり。プリプリする。年にも抗い、季節にも抗う。いいものを見た。二月中旬、冬の中で最も寒いらしい今期一番らしい寒波のなかで太ももが吐息を街に刻む。

ゆらぎに怒りがかけてわたしの身体は硬くなる。より硬くなる。鉄よりも君子よりも、刎ねた首を安全靴で蹴った。空を舞う首から滴る血は七色に光って五穀豊穣を祈る部族の姿を映す。そのとき、わたしは再びゆらぎ始めた。