暗い塵

塵ひかる 星の如く もしくはフケのように散る いろいろ色々 華々しく汚いおまえのフケが夜を超えるや 甲斐甲斐しい独居老人の読経 爽やかたる朝の清廉を壊して回る 呑み屋がえりのゲロ 清々しい鳩の鳴き声と 愛おしい雀の集会 もしくは 逢瀬 コンクリート 身体をくの字に 顔をへばらせ それでも朝の光は 残酷なほど美しく 夜のボケた馬喰の涙は 露になって そのうち噓みたいに白々しい昼間が 恐怖の昼下がりが 灼熱の日照りが あの夜と朝との 可憐な適温を ジャングルへと送り込む 汗水滴り カンカンカント軽やかに ステンレスの足場を駆ける音ともに 夜の落とし穴に引っかかった死が 口を開けて待っている 今夜 パードレに唾を吐く 夜の勢いにまかせて 聖女をおかす 夜の高揚にまかせて ドロドロにとけた おれとおまえの輪郭 そして 朝 十字架を切った おまえの手から おれが離切される

ゆらぎ

誰も聴こえないのをいいことに 雨脚がのっけから音を奪うんだ

-音を叩きつける!-

雨は鼓笛隊 幽霊も歌いだす でもだれも気づきやしない 気づかないことをいいことに 奴らも歌ってる 雨は解放する 生も死も劇物 雨のなかで天使と出会う 雨のなかで祝福される 音からの解放 世界が揺れている 境がゆらぐ 音が消える 独りを与える まつ毛に雫 目がゆらぐ ゆらぎが 見つめている 世界はゆらいでいる 雨に濡れた猫がほしいの 彼女はゆらぎの住人だった 濡れてる人だった 天使の声が聴こえていた 雨に濡れている あの世にいるみたいだ 生きてる 不思議なことだ 唾のまじった雨を吐く ガバガバ雨が湧いてくる 雨を吐く ハリネズミみたいに濡れてる 髪を掻き分ける 雨が逆さに降る 不思議なことだ 生きている 天使の声が聞こえる おれは再び歌いはじめる

ベッドタウンの不良たち

やさぐれた人 生活保護受給者 無精髭とフケにまみれた ベッドタウンの不良たち

金髪のモヒカン ぴっちりしたTシャツとデニム はみ出たグッチに彩られた ベッドタウンの不良たち

ベッドタウンの不良たち

咆哮しずまる床へ沈む

旧車會のエンジン音が 眠る住宅

国道2号線を 通過する

嗚呼 ベッドタウンの不良たち

魑魅魍魎 旗がひらめく どこへ

田舎へ 都会へ ベッドタウンから?

バッドだったんだ あのベッドは

最高に飛べたんだ あのベッドは

金髪だったんだ あの子は

援助交際して 風俗嬢して

今じゃ、おかあさんだ

ベッドタウンの幸せ 潰せ クレンチで

締め上げろ クランクで あの街に万力をかけろ グッチの長財布がちらつく ニッチからはみ出した幸に口づけるグッチ ああ ベッドタウンの不良たち は 火に焚べられる前 窒息する寸前 でもいい口笛を吹くもんだ シャブ中がエア電話してる 独りだ

居心地の悪い六人家族

ここはファミレスだろうか。二脚の長椅子に三人ずつ腰掛けている、奇妙な人たちはおそらく家族か。彼らは順番を待っていた。六人は居心地が悪そうに天井を見つめたり、目をキョロキョロさせたり、口をもごつかせたりして居心地の悪さを噛み砕いている様子だった。誰一人として、会話を試みるものもいなかった。何かを話しそうで話さず、口と目を昆虫の脚のようにバタつかせていた。

わたしがどこにいるのか、わたしには分からなかった。というよりもわたしがどこにいるのかは、どうでもよかった。わたしは長椅子と長椅子の間にある植木鉢の前にいて、六人、時には三人を同時に視野に収められるところにいた。わたしは目であり、身体の部位である目ではなく、わたしは目でしかなかった。苛立つ目だった。

わたしの目が、わたしの視線が、わたしのビームが家族を居心地悪くしていたのかもしれなかったが、目であるわたしが思うに家族はあまりファミレス的な空間に不慣れだったのではないかと考えている。

わたしは、家族のことを陰気な奴らと呼んでいた。何も話さず、堪え忍んでいるような態度が目について、わたしは苛ついていた。もうわたしは既に夢から覚めかけていたこともあって、焦るような気持ちも相まってなお苛ついていた。

どうでも良いテレビ番組の質問が気になって仕方ないというような感覚に近かった。わたしは彼らがどうか話すようにと願った。目が覚めてしまえば、二度と会うことなどないのだから、せめて一声だけでも言葉を発してくれなどと願った。

わたしは非常に人間的な目であった。わたしは目が覚める。どっぷりと身体が疲れている。疲労が粘ついた。目はあんまり開かなかった。家族は何も話さなかった。男か女か、目ん玉が狂ったようにでかい、あいつの目が宙を彷徨い、口が口が口が、あれは何かを話そうとしていたわけではないことをわたしは知っている。

もはや

おれはびっくりする。なぜか。おまえらよ、酢漬けの心臓どもよ。おれはもはや接着剤を持たない。文と文の裂け目に横たわる鈍感なおまんこで吸引力の唯一変わらないことをいいことに幅を効かせるダイソンみたいなもんだ。人の頭に生えているペニスを根こそぎ折っていきたい欲望は途絶え、代わりにやって来たものはエッキスである。おれのエッキスは、いやおれとエッキスは相変わらず距離感がおかしい。なあ、酢漬けの心臓どもよ。人間は変わるんだ、アホみたいに。だからおれは壁になって、そう、まさにグレートチャイナウォールをペニスで叩き割りたいフリをしている獅子座のジーザス野郎なのかもしれない。なあ、友よ、おまえらと酢漬けの心臓の違いってなんなんだろうな。考えれば考えるほど、ドドみたいにぶくぶく肥えるあいつを見てくれ。腹を割って1つ残らず種子を塵に返してやろうな、焚べてやろうじゃないか、なあ酢漬けの心臓どもよ。あそこであくがる奴らはみんな天国へ行ってほしい。せめて、おれは膣から食らわされた片道切符を燃やしてやろうと思ってる。

おれに敵はいない。それについて応えるのは至極難しいことなのだ。なぜ難しいか、そんなことは知らない。いいやそんなに難しいことではないだろう。おれたちは少なからず人間馬鹿馬鹿しい、少なからず哺乳類どもの酢漬けの心臓どもは、少なからず膣で育ったのだ。ああおれは卵から生まれてたらきっとスウパアなアウトサイダーになれたはずだ。哺乳類がみな卵出身だったなら、おれたち哺乳類が卵出身だったなら、一人部屋を持ってたなら。

おれは胎児の夢を思い出している。凡ゆる記憶が一斉に集まり始めた。怒りのメスが天から振り下ろされるまでの間、我々は生まれていなかった。

おれのタンパク質はアミノ酸は死んだら終わりなのだ!でも別にそれでいいのだ!その代わりにおれは反復するようにできていて、生態系から外された代わりにこの反復のなかで、おれは眠り続けることになるだろう!だからいいのだ!おおおお!起こしてくれ!もはや朝も昼も夜もない、あるのは、あること!アントナンアルトー

おまえがおれを押し上げたのは気圧に押されたからで別に問題はない。おれが問題にしたいのは自負だ

ネオスパ・住之江

ー配水管が詰まったらしい。部屋の下で水漏れがあるようだ。朝からおっちゃんたちがベランダのコンクリをはつっているー

友人からの誘いで、旅行へ行くこととなった。行き先も告げられず、ぼくは彼の後ろをついていった。夜に出かけるのはなんだかワクワクする。カブトムシを捕まえに行くような高揚感。

「ここってもしかして、、」

「住之江やで」

ぼくは西成に住んでいる。そこから住之江まで、チャリで20分足らず、電車に乗れば数分で着く。なぜ住之江なのだろう。とはいえ、ぼくの心は高鳴っている。近いから行きそびれていたネオ・スパ住之江の真っ赤なスポットライトのせいだ。グアムのPICホテルのような開放感がある。

ぼくらは信号のように拡声器が配置されている丸い革命広場を横切り、向かいのホテルへ向かった。部屋へ行くと、清掃道具が散らばっており、布団の上にモップやらチリトリ何かが置かれている。頭に血が上りやすい、ぼくは一人ブチギレて叫び始めた。白い作業服を着たおばちゃんがぼくの声を聞きつけたのか、部屋に入ってきた。

「またか。またやらかしてるな、これ」

「え?また?」

「ごめんなあ〜すぐに片付けますから、お風呂にでも行ってゆっくり疲れを癒してきてくださいね。キレイにしておきますから」と疲れた笑顔を僕らに向けて、そそくさと片付けを始めたので、友人とぼくは言われた通り、お風呂へ行くことにした。確かにそれ以外は選択肢がなさそうだ。

住之江はいつのまにやらリゾート地とか化していた。グアムのようでもあり、ヨーロッパのようでもあり、ネオ・スパ住之江はその象徴のような娯楽施設だった。夢から覚めるや否や、もう一度眠りについた。夢の世界に戻ると、夢はさっきよりも時が進んでいた。ぼくは空白を弄るようにして、一体何があったのか思い出そうとしている。何かがあった。さっきとは異なる何かがあった。しかし、何かがあった時には、ぼくはそこにいなかった。思い出す?一体何を。友人が見当たらない。

赤いスポットライトに照らされた踊り場に屈み込み、ぼくは初めて付き合った女と話に耽っている。

「上には上がいるの。ほら、この子の写真を見て」女はぼくにスマホを差し出す。画面にはロングヘアの女がトロフィーを抱えて笑っていた。

「美容の世界も激戦区よ」ぼくは、適当に相槌を打った。スパ住之江の雰囲気のせいか、ロマンチックなムードが漂う。赤い光は彼女をより美しくエキゾチックに見せたし、思い出を話すには十分すぎる哀愁と危うさを演習していた。

彼女は、まるで演者のように、ぼくらがなぜ上手くいかなかったのかを話し始めた。肉厚な唇がぼくに何かを問いかける。

また目が覚めた。再び眠りに着いた。

夢はもっと先に進んでいた。あれから三日の時が経っているとキキちゃんは言う。三日の間、どうやら、ぼくは音信不通だったらしい。キキちゃんの仕草や声のトーンから、ぼくは浮気した様子だった。涙は枯れて呆れた、キキちゃんの声は乾いていて、それでもどこか温かみがあった。

「目が覚めたら、三日経ってたわけやねん。だから、三日間何していたか説明しろって言われても俺にはわからん。何してたのか分からん。たぶん、キキちゃんの方がおれより知ってるはずやろう。だって、おれは別の世界におったわけやしな。」

この世界、ぼくが浮気した世界で、それについて何の記憶も持たないぼくに如何なる責任があるのかはわからない。それでも、三日間の苦悶

を強いられたキキちゃんを見ると、何かしら苛まれるものがある。

キキちゃんの口から一緒に旅行をしていたはずの友人の名前が出た。ぼくは少し安心した。友人はスパ・住之江で何かしらの事件に巻き込まれたのだ。その事件は既に解決しているとキキちゃんは言う。友人は、ぼくとは別の仕方で、問題を切り抜け、ぼくの安否をキキちゃんに報告していた様子だった。

広場の拡声器、赤い光、グアム、そして、ネオスパ・住之江。ぼくの中で、ある情景が結ばれていた。肩にレザーパッド、手にはナイフ、シルバーの膝当て。ぼくは何かと戦った。やるせない、仕方ない。あてにならない記憶が革命広場を走り抜ける。

釣り人と魚とサーファーとダイバー。インスタグラムにおける考察

以前、インスタグラムで釣りをした。露骨な罠だった。真っ白の画像にハッシュタグをつけただけの、ごく簡単な投稿。獲物は簡単に釣れた。彼らは獲物であると同時に釣り人でもあった。だれも写真なんて見ていない。記号にいいねが重ねられるだけのとんでもなく虚しい世界だ。いいねを付けた人間のところへ行ってみる。いいね自体も釣り針だった。釣り人は魚であり、魚は釣り人でもあった。

久々に妹に会ったとき、インスタについて話した。妹は友人といいねを幾らつけられるか競争していた。ビキニ姿の写真を載せて、ハッシュタグをつけまくりいいねを稼ぎまくっているそう。いいねを返したり、誰かの投稿を見たり、それで誰かに憧れたりはしないそうだ。妹はケラケラと笑いながら沢山いいねの付いた投稿を見せてきた。

明日、インスタがなくなろうがどうでも良いらしい。だから、いいねが幾ら増えようが、人気者になったという気概はまるでない。インスタは遊び道具の一つにしか過ぎないそうだ。

妹はインスタを信用していないし、5代目のコンサートへ行きながらべつにファンでもないらしい。学校の宿題は絶対にしないし、留学へ行くのもノリである。妹からすれば、学校も社会人もフリーターもいいねもハッシュタグも流行りも廃りもどうでもよいらしいのだ。流れに身を任せてサーフィンをするだけ。意味やら歴史やらそういうものにはてんで興味がない。波に乗っかりながら波すら信用していないサーファー。 レヴィ=ストロースから西洋人を引いてしまったようなやばい奴だ。ニヒルを完全に超越してる。ノリだけで生きている動物みたいな世代。おもしろそうな世代だなあ。

まあ、そんな化け物みたいな下の世代の煽りとハンコ文化みたいな上の世代の間に生まれた90年代そこそこの世代は、その間で宙吊りになって悲鳴をあげるしかないなんて情けない話だ。ぼくが幾ら時代を嫌悪したところで、91年生まれであることに変わりはないのだから。時代的なものが肌に染み付いている。 カートコバーンの悲鳴が耳に焼きついてる。だから、海の深くへ潜ったり、ときには水面へ顔を出したりしながら、バブルリングと人語の間を揺さぶり、釣り人や魚をバカにしたり憧れたり、サーファーのボードに頭をぶつけられたりしながら独特の声をあげよう。せめて誰かが聞こえるくらいの音量と意味で。