なぜお前たちはたまごを食えと言うのか

貧しい日本を知るご長寿たちは矢鱈とたまごを食わせたがる。挨拶をした二言目には「たまご食べるか?」である。嫌になってくる。たまごは彼らにとっては生命の源、栄養の水面とであるらしい。風邪をひいてるときもやっぱりたまごを勧めてくる。

歳が幾らにもならない時分に、未だ赤子であった従兄弟が階段から転び、頬を打った。わたしの祖母は冷蔵庫からたまごを取り出し、従兄弟の患部をさすり始めた。彼女によると未然に痣を防ぐための治療らしい。さすった後に彼女はたまごを割って、緑色になった黄身を指した。「たまごが痣を吸い取った証拠や」とドヤ顔をしていた。

まさに呪術である。視覚化不能な未だ見ぬ痣を黄身の変色により視覚化し、これが痣の正体であり、あなたの痣は黄身へ転化したのだと。一家はうんうんと頷き、祖母の超人的な異能っぷりに感服した有様だった。

たまご、有精卵、無精卵あれど生を象徴するもの。栄養価の高さ以前の記号。

松屋町の喫茶店でたまごサンドを食べながら、ふとそんなことを思い出していた。