悦びのナタ

硬い木、腕よりも硬い、ナタを握って振り下ろす。殴る。殴って殴って殴りまくって腕よりも太い楕円を掌で握れるほど細く円を作る。おれの素手は脆く、薄皮が剥がれる。それに気づくのは手のひらをまじまじ見つめたとき。ただ垂直にナタを下ろす、木を回す、ナタを下ろす。おれの骨は、この腕の骨はどれだけ硬いのだろう。ヒメシャラより軟いのか、この薄皮の掌が江戸時代に行けば病人か金持ちか、いずれか。女みたいな、マメ一つない薄い掌、多汗症の。小細工はなく、ひたすらナタを下ろす。頭に絵はなく、ひたすら紅梅を殴る。安心して殴っていい、そいつはお前より硬くて強い。人間の頭のように割れて血を吹くことはない。そんなに柔ではない。細工がいるわけではない。ナタを下ろして彼を削る。人間の力は大したものではない。暴力は愉しい。殴ることは愉しい。この愉しさは手放せたつもりでも手放せない。暴力の祭りが起源にあるサッカーとラグビーがどれほどクリーンになろうが、フーリガンは現れる。おれたちのフーリガンは犯罪へ走ろうとする。どれだけクリーンになろうが、おれたちのフーリガンフーリガンであることをやめようとしない。暴力は振るうべきだ、節約するべきでない。溢れるもので溢れるものを壊しまくればいい。簡単に頭がわれてしまうものよりも、その一度の愉悦のために刑務所に入るよりも、私たちはナタで木端をなぐればいい