他人のエッセイ

エッセイはいい。易しい。アイススケートくらい平坦に滑れて急に穴が空いたりしないし。というか、穴が空くことも前提なので、そもそもの自由度が高くて適当で伸び伸びしていて好きだ。イッセイミヤケに惹かれるのも語感がエッセイに似てるからだろう。知らんけど。中途半端でいい。ちょうどいい器だ。リラックスして書かれているように見えるから、こっちも身体を強張らせなくてすむ。いい加減に読めるのに中毒性もある、阿片みたいなやつ。

だから同じ作家のエッセイばかり読むのは危ないなと思う。エッセイは易しい分、身体に溶けやすいから、思考が侵されやすいような気がする。他人が頭に入ってくるのは本来心地の良いことではないはず。エッセイは心地よい。だから危ない。阿片である。

エッセイはいちいち格闘しなくてもいい。いちいち考える必要もない。隙間に入ってきてじんわり染み込んでくる。エッセイは怖い生き物だ。だから心地よい感覚になっても途中から気持ち悪さが襲ってくる。他人が入ってくるとやっぱり気持ち悪い。体調不良のときのような前後不覚な症状になる。

エッセイを読み明かして夕暮れがとっぷりと街を浸してる様を見るのはなんだか情けない気持ちになる。酒を飲んで朝日を見るのとはまた異なる遣る瀬無さ。エッセイは心地よく、気持ち悪い。小説とか映画とかでは味わえない気持ち悪さ、他人と丸一日いるような不快さ。エッセイはキモい