宿命

「なんも食べてない」ギリギリ聴こえるような声でおっさんが囀っている。アメ村の三角公園でだらだら煙草を吸っていた。「全財産30円しかない、お兄ちゃん、おにぎり一個、小さいのでええから食べたいねん、だから100円でもなんぼでもええからくれへんか?」「そうか、そらえらいことや細かくなるけどええか?」あ、やっぱりこのパターンかと思った。俺はよく物乞いされる。困ってるおっさんによう金要求されるし、食い物要求される。家の前で飲み過ぎたおっさんが足挫いてたりする。もうそうゆう星に生まれたんやろうな。だからこんときも、こんなに人おるなかで俺に一直線に声かけてるってのはすぐわかった。ほんまに小銭しかなかったから、10円玉を12枚とタバコを1本渡す。タバコ渡すってのはルールで、分かる人は分かると思うけどだいたい歳取ってる変な奴とかはタバコあげたら仲良くなる。東南アジアの人とかサモアンとかマオリとかだいたいこれだけで仲良くなれる。シャブ中でも、酒飲みでもなさそう、目はしっかりしてる。言葉も文法も狂ってない。話聞いてたら生活保護と年金で細々暮らしてる73歳になるおっさん。釜ヶ崎三角公園の裏に住んでるらしい。友達もおらんし、何やったら釜ヶ崎が怖いらしい。おっさんは50年パチンコ一筋らしくてサラ金に手を出してあぶくばっかり膨らんだ言うて。まだ借金はあんねん、言うから聞いてみたら1万円やって言うから笑ってもうた。タバコ半分あげた。おっさんはよう喋った、自分の生まれも、やってきた仕事もどんな仕事やってきたか、どんな所おったか。「コンビニ行くけどおにぎり買うてきたろか?」「え、ええの?悪いなああ(一息入れてか細い声)「パンがいい」「おっちゃんパン食いたかったん?笑」「拳くらいの小さいやつでええ、お兄ちゃん金使わせて悪いなあ」「パンゆうても色々あるやん、何がええのん?」「……あんぱん」「あんぱん食いたいの?笑」あんぱんなかったからクリームパンあげた。ほんでおっさんは懺悔するようにパチンコだけはやめられへん言うて、酒も女もシャブもせえへんのにパチンコだけはなおれへん。病気や、コロナより怖い病気にずっとかかってんねんて言いいよる。もうその歳で治るわけないねんから、死ぬまでパチンコ打ちなはれ言うて15日まで年金入れへんゆうてたから、食費計算して千円札3枚小さく小さく折っておっさんに渡す。食費計算したところでおっさんはパチンコ行ってするんやろうなあ、しゃあいないやんそうゆう星に生まれたんやろう。おっさんもおれも宿命やで。で、お前の宿命は?