羽虫を殺す

頭を掻いては帽子を被り、脱いでは頭を掻いて帽子を被る。その動作に嫌気がさして、帽子を被ったまま隙間に指を入れて掻いてみる。帽子がズレる。帽子を被りなおす。帽子がズレると視界にツバが入ってきたり、頭のフィーリングも落ち着かない。だからまた被りなおし、また指を入れ角度が歪む。次は帽子を左手であげ、ざっと頭を掻いてみる。2、3回繰り返し、その折に2ミリくらい小豆色の粒が親指の付け根に乗った。毛穴くらいのサイズのそれには見覚えがあったから指でさっと撫でる。摘もうとしたが摘むには小さすぎる。目を近づけてよく見れば丸まった羽虫だった。無碍な殺生、無自覚のお殺しほど気分を害するとはない。殺してやると思って殺したわけではないから後味が悪い。少し見つめて本当に死んでるのか死んでないのか舐めるように見た。形に変化はなし、生きているような気がする。足が折れてるわけでなし、身体が曲がってるわけでもなし、ただ脚を曲げて仰向けになっている。おれの目の解像度では何が致命傷になったのかは分からない。分からないが死んでいる。何が致命傷になったかは分からないが、確かにおれは巨人の指でこの羽虫を嬲ったのだから死んで当然。でも、ほんとうに何が致命傷になって死んだのだろう。