健康診断

鎖骨まで開いた診察用の上衣に袖を通す。採血中、話をされてもこちらは腕を見まいと目を逸らしているのだから何を言ってるのか分からず、テキトーに相槌を打つ。133番、検体番号が記載された紙のリストバンド。診療医は白衣にピンクのカットソーを着用していた。ものの15分で全ての過程が終了。心電図、視力、聴力、身長、体重。朝の採尿まで、リズミカルでスピーディに個体検査が終わる。心電図をやられながら科学の意味を理解する。数値になる身体、モノ、生物としての身体。鉄の物差しを充てられているよう。その冷たさが心地よい。心の無さが美しい。目の前に転がる透明なガラス小瓶3本にドロドロの採れたての血液が透けて見える。わたしの身体を流れていた血液が注射器を経て、ガラス小瓶へ運搬され蓋をされる。なぜ3本いるのだろうか。止血用の絆創膏をパチっと張られる。不良のような歩き方をしたのは反抗でも、アンチテーゼでもない。ただそうしたかった。厄介な牛のように気性の荒い馬のように振る舞いたかった。検体番号133番、脈拍、視力、聴力ともに基準値、いたって普通の健康体で従順ではあるが些か気性が粗く、物思いに耽るような様を見せる。健康診断とコロナ禍における人間の振る舞いはバチッと噛み合う。申し分のないシンメトリーである。それが心地よかったのかもしれない、電車に乗る時、道を歩いている時、買い物へ出かける時よりも、よっぽど地続きの振る舞いに思える。心地よかった。