ワンハンドレッドヒュージティッツドラゴン

恐らく、四国の太平洋側に来ている。香川らしかった。私はバスを駆使して南下している。気になる場所があれば降りて歩いてまたバスに乗る。日帰りである。折り返し地点へ行き散歩していると、気になる物件があったのでICOCAで買った。五万だった。物件を買わないと家の中には入れなかった。家は正方形の二階建てで一階は多分リビング。古い木造の急な梯子を昇れば多分寝室があるが、満足したので靴を脱がずにシャッター閉めようとすると、チラシが一枚目に飛び込んできた。『ひよこ預かります』フォント、デザイン、紙質から察するにそんなに古いモノではない。紙面はひよこの切り抜き、ひよこを預かる上でのスローガン、住所、電話番号で構成されていた。この家はどうやら最近までひよこ預所だったらしい。

私は盗んだ自転車で走り出した。なるべく、帰りのバスの経路と沿うような形で並走する。この辺は牛肉の名産らしく、大きな看板、とてつもなくでかい箱のステーキ屋、焼き肉屋、肉串屋がたくさんあり、どこも長蛇の列でなかなか入れない。オープンしたての肉串屋へ入店し、串を三本頼みビールを飲んだ。うまい、うまい、うまい!肉の部位はわからないが、食感はフワ、脂質はシマチョウ、でも赤身。こんなに不思議な肉があるんだと嬉しくなると自転車をどこに停めたかさえ、本当に乗ってきたのかさえ分からなくなり、スキップをしてヒッチハイクでもしたいなと思った。

次の瞬間に私は車の助手席にいた。まだ帰りのバスまで余裕があるのでまだ一軒牛肉店を回りたかった。この辺りでうまい牛肉屋はありませんか?とドライバーに訊いた。「デカければデカいほど美味い、建物が立派であればあるほど美味い」「運転手さん的に近くで一番美味いのはどこですか?」「一番美味いところは知っているけど、よくハイエースが停まっている」私は?となったが言葉を咀嚼する。「治安が悪いってことですね?」と尋ねると運転手は頷いた。車は夜になりかけの海岸沿いを走っていた。空は藍色で海はグレー、街もグレー、街灯も、建物もグレー。この街は人間が作った街ではなく、海の単色グラデーションの一部である。そんな場所の名産が牛肉。この街に住めば私も見た目はグレーになるのだろうと運転手の表情を見ながら思った。