知らない間に何かが生えて、知らない間に何かが絶えた

9ヶ月前

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9ヶ月後

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何かが生えていたらしい。初めの一週間は、ちらちらと観察はしたが、一向に萌も見えず、そのうち靴に土を盛ったことなど忘れていた。ふとしたことで思い出し、夜中ベランダへ走った。もしかすると捨てかもしれない。室外機の上にあった。9ヶ月間、その場所にあったらしい。全く気づかなかった。

俺のアレンエドモンズは俺の足によってますます分解の一途を辿っていた。足を入れる度に湿り気が増し、ベタつきが増す一方だった。靴は皮と木で出てきているから、靴が土へ還ろうとするのは当然のことのように思えた。

「リサイクルショップに入ったら、まず何がしたいですか?」

「例えばですけど、ボロボロの靴を花瓶として売れたら面白いなあと思います。靴は履く度に臭くなりますし、中がベタベタになりますよね。あれって、植物にとってはええ環境やと思います。やから、花瓶にしたらいいと思うんすよね。ボロボロの靴は靴やったら売れないと思うんですが、花瓶やったら有能なやと思うんですよ。カビ生えてても問題ない。そんな感じで本来の使い方でなく、全く別の使い方を提案して売る。売れたら、ぼくの勝ちだと思ってます。そういう勝ちを積み重ねていくことがリサイクルショップに入ろうと思った理由です」

現在、勤めている会社の一次面接での会話。その時に履いていた靴がアレンエドモンズで面接中も不快な足触りだったから感じてることをそのまま話し、適当なアドリブを入れて適当に面接をしていったら3次面接を突破し晴れて就職。その数年後、去年の6月くらいに土を盛った。

電気つけて靴見たら、何か生えとった。何か生えてたけど、知らん間に終わっとった。土はカラカラに乾いて、夜中に公園の土を分けてもらって素手で入れたもんやから、なに入ってんのか分からん。でも、まあ、何かの種入ってるかもしらへんし、もうとりあえず、手触りでマシな土入れたれ思って靴の履きジワ伸ばすくらいまでパンパンにしたった。覚えてる、土はすっごい痩せてて、こんな土入れたかて、どうにもならんやろうな思った。まあでも、折角出てきて靴も持ってきて公園おんねんから、入れなしゃあないやん。

家帰って手見たら爪まで土入っとった。蛇口でじゃあじゃあ洗って、どこ置こうかな、もう面でええわ、言うてベランダ置いた。何もでてけえへん。あかんわ、土も白なってきてる。でも、おれは自分の足の臭さ、アレンエドモンズは80年代のやつで、アメリカピックの靴なんやけど、40年履いたり履かれへんかったりした靴やねん、そらあもう俺が眠りからアメリカ人どもの足の雑菌ども叩き起こして、おれの雑菌ミックスしたわけやから、最高な状態。でも、土が悪いねん。でも、土が悪かろうが生えてくるもんは生えてくる。だからまあまあ生えようが生えなかろうがどっちゃでもええんやけど、とりあえず実験したかったんやな。それはスーパーアマチュア民族たるおれの宿命やわ。

ほんでまあ片足しかやってへんねん。片足しかない靴なんかほってもうたんちゃうかな思って今日探したら玄関の隅っこで暮らしてた。こいつはバキバキやろうな、ずっと履いてへんもん。だからしっかり温めて、眠れる俺の菌起こして、東っていうスキンヘッドのところの土もらうか、まあちょっとええ土入れて、しっかりお殺しさしあげたいね。靴が崩壊する姿みたいねん。あのフォルム、職人が情熱か惰性か技術で木と革縫い合わせて、人に合わせて作った形が自然に分解していく様ってええやろ。燃やすとかよりよっぽどええし、リサイクルなんかもうえっちゅうねん。こいつはゴミ箱いって一緒くたに燃やされるような代物ちゃうからな。そこそこええ靴やねん。ユニクロとかザラとはちゃうからな。あーゆうのはゴミ箱行くために作られてる。